梅毒というと昔の病気というイメージがありますが、実際には2013年頃から日本で感染者数が急増しており、身近な性感染症になりつつあります。若い女性の間で感染が広がっていることから、母子感染(胎児への感染)の増加も懸念されています。
梅毒は早期に治療を開始すれば完治が可能です。しかし、感染しても症状に気づかない場合や全身の病変部位が感染源になったりすることから、感染が拡大しやすい病気でもあります。
本記事では、「梅毒に感染したかもしれない」「梅毒に感染したらどうなるのか知りたい」と不安を感じている方のために「ばんどうクリニック堀切菖蒲園駅前」院長であり泌尿器科専門医かつ性感染症認定医である坂東が
- 梅毒感染者数の現状
- 梅毒に感染したらどうなるのか
- 梅毒の症状
- 梅毒の感染経路
- 梅毒に感染した時の対処法
について、詳しく解説します。ぜひ最後までご覧下さい。
1、梅毒の感染者数の現状
かつて梅毒は性感染症の代表とも言える存在で、1937年の研究では米国人の10%が一生のうちに梅毒に感染するとされたほどでした。しかし1940年代以降特効薬のペニシリンが普及するとともに感染者数は激減し、多少の波(小さな流行)はありながらも最近まで減少傾向が続いていました。
ところが、21世紀に入るとアメリカやEUで感染者数が増加に転じ、日本でも2010年以降梅毒と診断される患者が急増しており、2018年には1960年代と同じ水準に達しています(図1)。
図1:日本の梅毒患者届出総数(1948~2018年)
出典:国立感染症研究所「IASR(病原微生物検出情報)Vol. 41 p1-3: 2020年1月号」
また、梅毒感染者は従来男性に多く、とくに同性間の性交渉を行う男性の間で感染率が高いことが知られていました。ところが近年は異性間性交渉で感染する男女が増え(図2)、女性の場合はとくに20代で急増しているのが特徴的です(図3)。
図2:感染経路ごとの梅毒報告数(2010~2016年)
出典:厚生労働省「梅毒の発生動向の調査及び分析の強化について」
図3:性別・年齢別の梅毒報告数(薄い青・赤=2013年、濃い青・赤=2016年)
出典:同上
日本で梅毒患者が急増した原因としては、性風俗店や訪日外国人の増加が指摘されています。とくにデリヘルの増加と大いに関係しているという研究もあります。
2、梅毒に感染するとどうなるのか|梅毒の症状
梅毒は皮膚や粘膜の傷から病原菌(梅毒トレポネーマ)が侵入することで感染し、さまざまな症状が全身に広がっていく病気です。
症状の進行過程は第1期・第2期・第3期•第4期に分けられます。有効な治療法が普及している現在では第3期以降に移行する例はほとんどありません。
感染しても長期間症状が現れないケースや、次の段階への移行期には何の症状も見られないことがよくあります。これらは無症候梅毒や潜伏梅毒と呼ばれます。
梅毒に感染した各期での症状について、詳しくみていきましょう。
(1)第1期の症状:感染から約3週間
梅毒トレポネーマが体内に侵入してから3週間程度経過すると、侵入部位にしこりが生じます。通例は1個だけですが、2個以上できるケースもあります。
症状が起こりやすい(病原菌の侵入が起こりやすい)部位は、男性の場合は冠状溝(いわゆる「カリ首」)、包皮、亀頭、女性の場合は大陰唇、小陰唇、子宮頸部です。
しばらくするとしこりの表面が破れることがあります。さらに、股の付け根(鼠径部)にあるリンパ節の腫れも起こります。
オーラルセックスにより口や喉に感染することもあります。その場合、とくに唇、舌、扁桃に症状が出る例が多いとされます。
(2)第2期:感染から3ヶ月程度
感染から3か月程度経つと、全身の皮膚・粘膜にさまざまな症状が現れてきます。
初めは赤い斑点(アザ)が胴体を中心に顔、手足に生じますが、痛みやかゆみはありません。小さなバラの花のように見えるため「バラ疹」と呼ばれます。色が薄く目立たず、自覚されない場合があります。
さらに、皮膚に小豆大またはエンドウ豆大の赤くて硬いできもの(盛り上がり)が生じます。手のひらや足の裏に生じた場合は表面がカサついてフケが付着したように見えます。
外陰部や肛門周辺では乳白色のできものとなり、表面がただれて分泌物がしみ出します。これは梅毒トレポネーマを大量に含んでおり、感染の原因となりやすいことが知られています。
口の中に乳白色の斑点が広がったり、扁桃が赤く腫れたり、口角が白っぽくただれたりする症状もあり、さらには頭髪が虫食い状に抜けたり、全体的に薄くなったりする場合もあります。
(3)第3期:感染から数年
治療せずに放置した場合、感染後数年以上経過してから皮膚や骨、筋肉、肝臓、腎臓などに硬いしこりやゴムのような腫れ物が生じ、患部の組織は破壊されます。鼻の骨はとくに破壊されやすいため、かつては「梅毒にかかると鼻が落ちる」と言われました。
(4)第4期
血管系や神経系が侵され、心臓や脊髄、脳に異常を来して日常生活が困難になり、場合によっては死に至ります。
(5)無症候梅毒(潜伏梅毒)
検査では梅毒トレポネーマの感染が確認される(陽性である)にもかかわらず、梅毒の症状が何も現れない状態が見られることがあります。主に次のようなケースです。
・感染しても初期症状が長期間現れないケース
・第1期から第2期への移行期で一時的に症状が出ないケース
・第2期の症状が消退した後
・梅毒トレポネーマの活動性が失われ、治癒状態にあるケース
治癒状態にあると見なされるケースを除き、症状がなくても検査が陽性であれば治療が必要となります。
3、梅毒の感染経路
梅毒に関して、「そもそもいつ梅毒に感染したのか」と疑問に思った方もいるのではないでしょうか。
傷のある皮膚や粘膜が病原菌にさらされることで感染する場合と、母親から胎児に感染する場合があります。
(1)皮膚・粘膜からの感染
梅毒の第1期と第2期には病変部位から梅毒トレポネーマを含んだ体液などが排出される状態になっており、それが皮膚や粘膜の傷に触れると感染するおそれがあります。自覚されない微細な傷であっても感染経路となるので注意しましょう。
梅毒トレポネーマは人の体の外では長く生存できないため、通常は病変部位と皮膚・粘膜が直に接しなければ感染しません。そうした接触は実際上はほぼ性行為に限られます。物を介した間接的な接触で感染したとされる例も報告されていますが、非常にまれです。
なお、第3期以降や治癒状態にある無症候梅毒では病原菌が排出されず、感染のリスクはないとされています。
①性行為(膣・肛門性交、オーラルセックス、キス)による感染
梅毒のほとんどが膣・肛門性交かオーラルセックスを介して感染したものです。皮膚・粘膜にもともとあった傷や、性行為によりできた微細な傷から病原菌が侵入することで感染が生じます。
唇や舌に病変がある相手とキスをした場合にも感染する可能性はありますが、軽い接触程度であればリスクは低いと言えます。
②性行為以外での感染
多量の病原菌を含む血液・体液が付着した物品に肌が触れたことで梅毒感染が生じたとされる例も報告されていますが、極めてまれで例外的なものです。
梅毒トレポネーマは体外ではすぐに死んでしまうため、日常生活で食器などを介して間接的な接触により感染するということはあまり考えられません。
昔は輸血で感染する例がありましたが、輸血用血液製剤に関する研究が進んだおかげで激減し、近年の日本では輸血による感染は報告されていません。
(2)母子感染(先天梅毒)
妊婦が梅毒に感染していると、胎盤を通して梅毒トレポネーマが胎児に伝わり、胎児が梅毒に感染することがあります。
これは先天梅毒と呼ばれており、出生時または生後3か月以内に発症して
皮膚やリンパ節、内臓の病変、発育不全
などを引き起こす早期先天梅毒と、学童期以降に発症して
眼や歯の異常、難聴
などを引き起こす晩期先天梅毒があります。
母子感染率は60~80%とも言われ、とくに母親が第1期か第2期の梅毒で治療が施されない場合は胎児も感染してしまうのが一般的です。無症状または第3期以降の梅毒の場合は20%程度の感染率です。また、母親の梅毒を放置すると死産や新生児死亡のリスクも高まるため、少しでも不安のある妊婦の方や妊娠を希望している方であれば、事前の検査や治療は行うべきでしょう。
4、もしかして感染してる?梅毒の症状が出た時の対処法
梅毒は自然に治ることはありません。まずは梅毒に感染しているかどうか検査により確認し、感染が判明したら早期に適切な治療を受けましょう。
(1)梅毒に感染しているかを確かめる
梅毒に感染しているかどうかは血液検査(抗体検査)で判定するのが一般的です。第1期(感染3週間以降)の症状が現れても、検査で反応が出るまでになお1週間程度かかるため、感染のきっかけとなったと疑われる出来事から4週間以上経過してから検査を受けなければなりません。
①医療機関で検査する
医療機関で検査を受ける方法と郵送検査キットを用いる方法があります。医療機関の場合、皮膚科や泌尿器科(男性の場合)、婦人科・産婦人科(女性の場合)などを受診するか、各地の保健所で実施されている(無料・匿名の)検査を利用します。
②自宅で検査する
郵送検査の場合、感染症の検査機関から検査キットを購入して取り寄せ、自分で血を採って送り返して検査してもらいます。検査キットは検査代込みで販売されるのが一般的です。郵送検査は手軽で誰にも会わずに検査できるのが利点ですが、医療機関の保険診療に比べて高額です。
結果が陽性(梅毒感染あり)の場合、パートナーも感染している可能性が高いため、今後のためにもパートナーにも検査を受けてもらった方が良いでしょう。
(2)梅毒に感染していたら治療を受ける
梅毒の治療にはペニシリン系の抗菌薬が用いられます。クラミジアや淋病などでは耐性菌(抗菌薬への抵抗力を持つ病原菌)というやっかいな問題がありますが、梅毒では耐性菌は発生しておらず、薬がよく効きます。
日本では主に内服薬(飲み薬)による治療が行われており、治療期間は第1期の場合2~4週間、第2期では4~8週間、第3期以降は8~12週間です。
第1期と第2期の梅毒は治療により完治することが可能です。第3期以降となると病原菌は退治できても骨や臓器などにすでに生じた障害を元に戻すことはできません。梅毒は早期に発見し、感染していても放置せずに早めに治療を開始しましょう。
(3)再発や再感染に注意する
梅毒は一時的に(ときには長い間)症状が消失することがありますが、病原菌の活動性が残っている限り病状は進行していきます。症状がよくなったからといって自己判断で服用を中止してはいけません。
再発するおそれを防ぐためにも、医師の指示に従って治療を続けることが大切です。
また、梅毒に感染しても十分な免疫ができないため、完治後に再感染する可能性があります。ライフスタイルを見直すなどして感染予防に努めることが大切です。
5、梅毒の感染を予防するには
梅毒(第1期・第2期)にかかっている相手とは(たとえ症状が消失していても)性行為をしないか、病変部位に直に触れないようにすることが最も基本的な予防対策です。なかでもとくに注意が必要なのは外陰部・肛門周辺の病変です。
コンドームを使用すれば、ペニスを介した感染(ペニスの病変部位からの感染とペニスへの病原菌の侵入)が防げます。
ペニス以外の部位を介した感染には当然ながらコンドームは効き目がありません。病変部位に肌や性器、舌などが触れないように気をつけなければなりませんが、梅毒では全身に病変が起こるため、場所によっては接触を避けるのが難しいでしょう。
性感染症全般に言えることですが、不特定多数との性行為や風俗店の利用はなるべく控え、決まったパートナー以外と性行為をする際にはとくに慎重に予防対策を図ることが重要です。
まとめ
梅毒は現在世界的に感染者が増加傾向にあります。膣・肛門性交に限らず幅広い性行為で感染するリスクがあり、母親から胎児にも高い確率で感染するため、早期発見・早期治療が大切です。
本文では触れませんでしたが、梅毒は淋病、クラミジア、HIV、B型肝炎などと複合して感染するケースもあり、梅毒の症状がHIVの感染確率を高めるとも言われています。
症状や感染機会に心当たりのある方は、病状悪化や感染拡大を引き起こす前に、早めに検査を受けてみることをおすすめします。
記事監修
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東京慈恵会医科大学での泌尿器科診療をはじめ、内科や、腹腔鏡手術や内視鏡手術などの先端医療、皮膚科専門医の指導を受け皮膚科疾患診療にも従事。
〈資格〉日本泌尿器科学会 専門医・指導医/日本がん治療認定医/日本性感染症学会 認定医/日本医師会認定 産業医/泌尿器腹腔鏡技術認定医/難病指定医/緩和ケア研修終了/ 〈所属学会〉日本泌尿器科学会/日本内科学会/日本皮膚科学会/日本透析医学会/日本性感染症学会/日本泌尿器内視鏡学会/
http://bando-clinic.com/
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