梅毒は段階的に進行し、多彩な症状が現れる病気です。近年日本では梅毒が流行状況にあり、感染する危険が高まっています。
本記事では、梅毒感染で男性に生じる症状を詳しく解説し、症状が出た場合の対策(してはいけないこと・すべきこと)を紹介します。
1、男性に生じる梅毒の症状
梅毒の進行段階は第1期から第4期に分けられます。治療すれば第1期か第2期の段階で完治することが可能ですが、放置すると第3期・第4期まで進行し、生活に支障を来すような重い病状に陥る危険があります。
(1)第1期の症状
梅毒の病原体(梅毒トレポネーマ)は皮膚・粘膜の傷から体内に侵入します。本人に自覚のない微細な傷でも病原体の侵入は起こります(性行為ではそうした傷がよく生じます)。
病原体の侵入が起こりやすい部位は、ペニスの冠状溝(カリ首)・包皮・亀頭部、唇、舌、扁桃、肛門周囲などです。なお、女性器の場合は大陰唇・小陰唇と子宮頸部でよく感染が起こります。
感染してから3週間程度経つと、病原体の侵入が起こった箇所に小豆大から人差し指大のしこりができ、次第に盛り上がって中心がただれた状態になります。通常は痛みはありません。
しこりができてからしばらくして、鼠径部(太ももの付け根あたり)のリンパ節が硬く膨れます。こちらも痛みがないのが通例です。
これらの症状は治療しなくても2~3週間程度でおさまり、その後しばらくは無症状の期間が続きます。
第1期の症状が現れない(自覚されない)ケースもかなりあります。
(2)第2期の症状
梅毒トレポネーマは体内に侵入すると血流に乗って全身に広がります。そして感染後3か月程度経過した頃から皮膚・粘膜に以下のような多様な症状が現れてきます。放置すると以後3か月から3年にわたってあれこれの症状が続き、やがて自然におさまって再び無症状期間に入ります。
①胴体・顔・手足などの赤い斑点(梅毒性バラ疹)
第2期の初めには小さな赤い斑点(あざ)が胴体や顔、手足などに生じるのが一般的です。これはとても特徴的な症状で、斑点の色・形がバラの花に似ているため「バラ疹」と呼ばれます。ただし、小さくて色が薄いため自覚されない場合があります。
写真などで見ると患部に赤い斑点が広がってかゆそうにも見えますが、かゆみや痛みはないのが普通です。
②上半身や顔のできもの(丘疹性梅毒疹)
上半身や顔の皮膚に小豆大またはエンドウ豆大の硬いできもの(盛り上がり)が生じます。初めは赤い色をしていて、次第に褐色または銅色になります。
③手のひらや足裏のできもの(梅毒性乾癬)
皮膚の角質層が分厚い部位(手のひらや足の裏)に丘疹性梅毒疹の症状が生じると、できものの表面がかさついてフケが付着したような感じになります
④外陰部・肛門周辺のただれたしこり(扁平コンジローマ)
丘疹性梅毒疹の症状が外陰部や肛門周辺に生じると、表面がぶつぶつした(またはふやけた)しこりとなります。色は淡紅色または灰白色です。
しこりの表面はただれていて、多数の病原体を含んだ液が染み出すため、性行為中に接触すると高い確率で感染が起こります。
⑤口内・口角の病変(梅毒性粘膜斑・アンギーナ・口角炎)
口の中の粘膜に乳白色の斑点ができたり(粘膜斑)、扁桃やその周辺が赤く腫れたりします(アンギーナ)。口の端(口角)が白っぽくただれることもあります(口角炎)。
⑥皮膚の一部が白くなる(梅毒性白斑)
皮膚の色素が抜けて白っぽくなります。真っ白ではなく、中途半端に色が抜け、境界が不明瞭なのが特徴です。
⑦爪の病変(梅毒性爪炎・爪囲炎)
爪が炎症で白っぽくなったり透明感が失われたりします(爪炎)。爪の周りの皮膚が厚く盛り上がることもあります(爪囲炎)。
⑧毛が抜ける(梅毒性脱毛)
頭髪が全体的に薄くなったり、虫食い状に小さな脱毛があちこちに生じたりします。後者は円形脱毛症の症状に似ています。
⑨膿疱性梅毒疹
全身の健康状態が悪い場合や免疫が低下している場合に、膿のたまった水ぶくれ(膿疱)が全身に多数生じることがあります。
(3)第3期の症状
感染後3年以上経過してから、皮膚・骨・筋肉や肝臓・腎臓などの臓器に硬いしこりやゴム状の腫れものができ、その部分の組織が破壊されます。
(4)第4期の症状
感染後10年以上経ったところで梅毒の末期症状が現れ、心臓の血管や中枢神経系が侵されます。心臓の血管が侵されると心臓病の原因となる大動脈瘤などの症状が現れ、中枢神経系が侵されると精神や知能が異常をきたしたり歩行不能に陥ることもあります。
2、梅毒の症状が出た時にしてはいけないこと
(1)放置
梅毒の症状は自然におさまることがあります(第1期と第2期の間、第2期と第3期の間など)。しかしこれは表に現れる症状が一時的に消えただけで、梅毒の感染自体がおさまったわけではありません。
第3期以降に進んでしまうと取り返しのつかないダメージが生じます。症状が出た時点でなるべく早く検査・治療を受けることが大切です。
(2)性行為(オーラルセックス・キスも含む)
梅毒は性器だけでなく全身に症状が現れるため、幅広い性行為が感染経路になります。病変部位に皮膚や粘膜が直に接触すれば感染する可能性があり、膣性交に限らず、オーラルセックス、舌による愛撫、キス、肛門性交などの行為も危険が伴います。
コンドームの使用だけでは梅毒感染を防ぎにくいため、治療が完了するまでは性行為全般を控えましょう。
3、男性が多い?梅毒感染の現状
2010年頃から日本で梅毒が急増し、流行といえる状況になっています。感染者増加率は女性のほうが高くなっていますが、感染者数はほとんどの年齢層で男性の方が上です。
(1)梅毒の流行状況
日本の梅毒感染者数は第2次大戦後に特効薬(抗生物質)が普及したことで激減し、その後も概ね減少傾向が続いてきましたが、2010年頃から増加に転じ、2018年には1960年代の流行期と同様のレベルに達しています(図1)。
図1:日本の梅毒患者届出総数(1948~2018年)
出典:国立感染症研究所「IASR(病原微生物検出情報)Vol. 41 p1-3: 2020年1月号」
梅毒感染者の増加は世界的に見られる傾向です。日本での流行には訪日外国人の増加や風俗店(とくにデリヘル)の増加が関係していると言われています。
(2)男女別・年齢別の感染者数
2013年と2016年の感染報告数を比べると(図2)、男性の20代・30代で3倍前後、40代で約4倍、女性の20代で約10倍、30代で約5倍、40代で約6倍と、大きく増加しているのがわかります。とくに20代女性の増加率が突出しています。
図2:性別・年齢別の梅毒報告数(薄い青・赤=2013年、濃い青・赤=2016年)
出典:厚生労働省「梅毒の発生動向の調査及び分析の強化について」
増加率は女性のほうが大きいものの、感染者数はほとんどの年齢層で男性の方が上です。これは昔から変わらない傾向です。また、女性の感染率が上がればそれにつれて男性の感染者数も増えると考えられます。
男性は年齢にかかわらず梅毒感染に十分気をつける必要があります。とくに風俗店を利用する男性はかなりの危険を覚悟しなければならないでしょう。
4、梅毒の症状が出た男性がまずやるべきこと
梅毒は自然に治ることはありません。放置すれば病状の進行や感染拡大を引き起こすことになりますので、症状が出ている場合はすぐに対処する必要があります。
(1)検査をする
まずは検査を受けて本当に梅毒かどうか判定することが必要です。梅毒にはさまざまな症状があり、医師ですら観察しただけでは梅毒かどうか判断できない場合があります。上で解説したような症状が出ている場合はもちろん、近い症状、似ている症状がある場合も検査を受けてみた方がよいでしょう。
梅毒検査では血液を採取して抗体(免疫の働きでできる物質)の有無やレベルを調べます。正確な診断ができるようになるまでには感染から4週間程度経過していなければなりません。第1期の症状が出るまでの期間(潜伏期間)が3週間ほどですので、それからさらに1週間程度待って検査を受ける必要があります。
検査は医療機関で受けられるほか、検査キットを利用する方法もあります。
①医療機関で検査する
泌尿器科、皮膚科で検査が受けられます。医療機関であれば検査からすぐに治療に移行でき、梅毒以外の病気だったとしても対応してもらえるという利点があります。
バラ疹など陰部以外の皮膚に症状が出ている場合は、他の皮膚病と紛らわしいケースがあるため皮膚科を受診するとよいでしょう。
②自宅で検査キットを使用する
検査機関から通信販売で検査キットを購入し、自宅で血液を採取して送り返すだけで検査が受けられます。検査結果は郵送通知やインターネットの専用ページなどで確認できます。
誰とも対面せずに手軽に検査を受けられるのが検査キットのメリットです。まだ明確な症状が出ていない方などにおすすめできます。
(2)パートナーや関係のあった相手に伝える
検査で感染が判明したら、パートナーや性交渉をもった相手に打ち明け、検査を受けてもらう必要があります。検査前の段階であっても、感染の恐れがあることについて相手にできる限り早く伝えるのが望ましいでしょう。
そうすることで相手も症状が小さいうちに対処することが可能になるかもしれませんし、(相手が自分以外とも性交渉をもっている場合は)感染拡大を予防することにもつながると考えられます。
また、相手と話し合って感染経路(自分から相手にうつしたのか、その逆か、など)を確定しておいた方が今後のためによいでしょう。
まとめ
梅毒は幅広い性行為が感染経路になる上に、現在日本で流行中であり、「心当たりがない」のにいつの間にか感染しているケースもよくあるため、注意が必要です。
梅毒は全身に症状が出る病気です。下半身以外の症状もチェックし、気になる症状がある場合はなるべく早く検査を受けるようにしましょう。
記事監修
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東京慈恵会医科大学での泌尿器科診療をはじめ、内科や、腹腔鏡手術や内視鏡手術などの先端医療、皮膚科専門医の指導を受け皮膚科疾患診療にも従事。
〈資格〉日本泌尿器科学会 専門医・指導医/日本がん治療認定医/日本性感染症学会 認定医/日本医師会認定 産業医/泌尿器腹腔鏡技術認定医/難病指定医/緩和ケア研修終了/ 〈所属学会〉日本泌尿器科学会/日本内科学会/日本皮膚科学会/日本透析医学会/日本性感染症学会/日本泌尿器内視鏡学会/
http://bando-clinic.com/
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